【社会保障協定】年金の二重払いを防ぐSOFAが知っておきたい制度
横須賀で素敵なアメリカ人と出会い国際結婚を叶えた日本人女性の皆さん、おめでとうございます。SOFAになってからいよいよ現実を考えなくてはなりません。日本とアメリカの様々な制度の違い。特に保険や年金は日本とは大きく異なるので、わからないことだらけでストレスですよね。日本で支払った年金はどうなるのか?将来は日本に戻って来たいけどそのときに年金はもらえるの?日米の社会保障協定はそんなあなたの悩みを解消するための覚えておきたい大事な協定。この協定がどのようにあなたの実生活に役立つのか、分かりやすく解説します。
日米社会保障協定の基礎知識
日本にとってアメリカはとても身近な国。では、どれだけの人がアメリカの制度について考えたことがあるでしょうか?SOFAになった人だけでなく、ビジネス、留学など様々な理由で人々が国を超えて行き来しています。しかし、このような国際的な移動に伴い、社会保障制度、年金制度に関する問題が生じることがあります。そこで重要な役割を果たすのが「社会保障協定」です。
社会保障協定とは
社会保障協定(International Social Security Agreement)は、二国間で締結された社会保障に関する協定です。この協定の主な目的は、両国の年金制度に加入していた人々が、それぞれの制度の加入期間が短いことによって生じる不利益を回避できるようにすることです。日本はアメリカ以外にも2024年8月現在、合計23カ国との社会保障協定を結んでいます。
従来、日本とアメリカの年金加入期間はそれぞれ独立して計算されていました。例えば、日本企業からの駐在員として2~3年間アメリカで働いた場合、そのアメリカでの年金加入期間は短すぎて、実質的に掛け捨てになってしまうことがありました。日米社会保障協定は、このような不利益を解消するために設けられた制度なのです。
協定の主要ポイント
日米社会保障協定には、主に次の二つの重要なポイントがあります:
- 年金受給要件の加入期間の通算
- 短期滞在者の年金加入免除
これらのポイントについて、詳しく見ていきましょう。
日本とアメリカの年金制度の違い
各国の政策により年金制度の対象や支給要件は異なります。
ここではアメリカと日本の違いについて見ていきましょう。
国 | 被用者 | 自営業者 | 無業の人 | 受給開始年齢 | 最低加入期間 |
---|---|---|---|---|---|
日本 | 加入義務あり | 加入義務あり | 加入義務あり |
国民年金:65歳 厚生年金保険(※1): 男性64歳 女性62歳 (※1) | 10年 |
アメリカ | 加入義務あり | 所得により、加入義務あり | 加入義務なし | 66歳(※2) | 40四半期(10年相当)*3 |
注記:
※1 男性は1959年4月2日〜1961年4月1日生まれ、女性は1960年4月2日〜1962年4月1日生まれの場合。
(男性は2025年まで、女性は2030年までに65歳に引き上げ予定。生年月日と性別に応じた受給開始年齢は特別支給の老齢厚生年金をご参考ください。)
※2 2027年までに67歳へ引き上げ予定。
※3 3ヶ月を1クレジット。(Quatary)40クレジットが必要期間となります。
>>日米の年金の違いについて説明している↓の記事も人気です。
年金受給要件の加入期間の通算
日米社会保障協定の最も重要な特徴の一つが、年金受給要件の加入期間の通算です。これにより、一方の国の年金受給要件の最低加入期間が足りない場合でも、相手国の年金制度の加入期間を合わせて計算することができるようになりました。
加入期間の通算の仕組み
具体的な例を挙げて説明しましょう:あなたは
- 日本の厚生年金に6年間加入していました。
- その後、アメリカに移住して9年間働き、社会保障費(年金)を納めて来ました。
- アメリカに渡ってから3年後にはアメリカに帰化していました。(6年間はアメリカ人として納税していた。)
この場合、従来の制度では次のような問題が生じていました:
- 日本の公的年金受給に必要な加入期間は、実際の厚生年金加入期間6年間と、日本人であって国外にいた*カラ期間(帰化以前の3年間)の計9年間。
これでは日本の公的年金の受給要件である「最低10年加入」を満たさない。 - アメリカでは9年しか納税の実績がないのでの社会保障の受給要件である「最低10年加入(正確には40クレジット)」を満たしません。
上記のケースでは結果として、日米両国で通算15年間年金保険料及び社会保障税を納めていたにもかかわらず、結果的には日米どちらからも年金を受給できないという極めて不利な状況に陥っていました。
こういった国民にとってマイナスな状況を改善するため「社会保障協定」が結ばれました。
**カラ期間とは日本に年金を納めていなくともカウントされる期間を言います。
協定により改善された点
先のケースを例にすると、日米の「社会保障協定」により、下記の点が改善されました。
- 日本での6年間とアメリカでの9年間を通算し、両国で「加入期間15年間」とみなされる
- 両国の受給要件を満たすことが可能に
これにより日本で収めていた税金もアメリカで収めた税金も無駄になることがなくなります。
さらに受給資格である期間の要件を満たすことができるようになりました。
ただし、注意すべき点もあります。
- 通算されるのは受給資格に必要な加入期間の計算だけです。
- 年金の支給元及び支給額はそれぞれの国の年金制度の独立して計算されそれぞれの国から支給される。
- どちらか一方の国の年金に相手国の年金が加算されるわけではない。
>>アメリカの年金制度を詳しく知りたい方はこちら(外部リンク:日本年金機構)
年金が免除される条件
日米社会保障協定のもう一つの重要なポイントは、短期滞在者に対する年金加入の免除制度です。
免除の条件
通常、所得を得る者は国籍や所得のソースに関わらず居住国の年金制度に加入する必要があります。
しかし、日米社会保障協定により、次の条件を満たす場合は滞在相手国の年金制度への加入が免除されます:
免除要件
- 予め5年以内の短期滞在しか見込まれない場合
- 日本の社会保障制度に加入継続する
- 事前に申請を行う
(予期せぬ事情により5年を超えてしまう場合には、両国での合意があれば日本の社会保険制度に引き続き入れる場合がありますが、あくまで例外的な取り扱いです。基本的には5年を超える場合には相手国の社会保障制度に加入する必要があります)
この制度により、短期の海外赴任や留学などで一時的に相手国に滞在する場合には、二重に年金保険料を支払う必要がなくなります。
SOFAの人にはどんな影響があるの?
社会保障協定は、グローバルに活動する人々にとって大きな意義を持ちます。
もちろん、アメリカ軍人の妻になった人も知っておいたほうが良いでしょう。
SOFAステータスのあなたへの影響
- 年金受給権の確保:両国での就労期間を合算することで、年金受給権を確保しやすくなります。
- 経済的負担の軽減:短期滞在者の年金加入免除により、二重払い、掛け捨てのリスクが軽減されます。これはSOFAの方にはあまり関係がないかもしれません。
- 将来設計の柔軟性:国際的なキャリアを考える上で、年金に関する不安が軽減されます。軍をリタイヤして日本で暮らす場合などにも柔軟に計画を進めることができます。
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まとめ:日米社会保障協定の重要性
日米の社会保障協定は、グローバル化が急激に進む現代社会において非常に重要な役割を果たしています。この協定により、日本とアメリカの間を行き来する際の年金問題が大幅に改善され、より柔軟な将来に向けたキャリア選択や生活設計が可能になりました。
特に、冒頭で紹介した国際結婚を考えている、国際結婚をした日本人女性にとって、この協定は大きな意味を持ちます。アメリカ軍人との結婚後も日本での就労を続け、将来的にアメリカに移住する可能性がある場合、両国の年金制度を適切に利用することで、将来の経済的安定を確保することができます。
ただし、この協定の適用には細かい条件や手続きがあるため、個々の状況に応じて日米双方の専門家に相談することが重要です。また、将来の制度変更の可能性も考慮に入れ、定期的に情報をアップデートすることが大切です。
社会保障協定は、国境を越えて活動する人々の社会保障の権利を守り、両国間の人材交流を促進する重要な取り組みです。今後も、このような国際的な協調が進み、より多くの人々が安心して国際的なキャリアを築けるようになることが期待されます。